第12章 四人の子どもたちの世界ツアー


             



 夕方、エゴン氏をサポートしている特別顧問、バド氏の提案で、イベントでの演奏依頼はピアだけでなく、マホムやマリアやコータにもジョイントで参加してもらうように、それぞれ本人に電話で頼みました。そして明日、四時に、エゴン氏がエンジェル・ホームに来て、そのことを子どもたちみんなに直接、お願いするということを伝えました。



 次の日、四人の子どもたちは学校が終わった三時頃から、エンジェル・ホームの音楽室に集まりだしました。

「ねえ、聞いたあ!?ぼくも演奏、頼まれちゃったよ・・・。きっと、とってもひろい会場でやるんでしょう!?なんかドキドキしちゃうな・・・。」

 とコータは、少し興奮しながらピアにいいました。

「今日、あのエゴンさんが来るんでしょう?わたし、緊張しちゃうなあ・・・。」

 とマリアは、ひとりごとのようにいいました。子どもたちはエゴン氏やライズ氏を、テレビやコミュニティーセンターの入口にある立体映像のVR装置で何度も見ていたので、その外見は、よく知っていました。

 マホムはコンサートの経験も多く、大人たちばかりいるパーティーにもよく招待されていたので、こういうことには慣れているらしく、いつもと変わらない様子でチェロの指の練習をしていました。そして、人見知りしやすいピアも、まだ、いつもと変わらない様子で、・・・いや、いつもより少し、おとなしい感じでした──。

 音楽室には、だんだんとテレビやカメラマンや記者たちもやって来ました。そうこうしているうちに、あっという間に四時になり、待っていたエゴン氏たちも訪れました。

「こんにちは!すてきな音楽を奏でるというのは、君たちかあ・・・。」

 エゴン氏は音楽室に入るとすぐ、こういいながら子どもたちに握手を求めました。

「・・・こんにちは。」

「こんにちは・・・。」

 とマリアとコータは少し緊張気味に、実際に見る背の高いエゴン氏を見上げながら、握手をしました。けれどその緊張も、エゴン氏のさわやかな笑顔と明るい声で、すぐにとれてゆきました。

「君がマホムくんかあ。コンサート、がんばっているみたいだね。」

「はい。」

 といって、エゴン氏とマホムはおたがい笑顔で握手を交わしました。

「おう、君がピアちゃんだね?君のうわさはよく聞いているよ。」

 とエゴン氏は、元気な声でいいながら、ピアに右手を出し握手を求めました。

 ピアは、コクッとうなずき、下を向いたまま自分の右手をエゴン氏に差し出しました。「んっ?どうした?手が震えているよ・・・。」

 とやさしい声で、エゴン氏はしゃがみこんで、ピアの顔をのぞき見ながらいいました。「あっピア、初対面の人と会うと、よく人見知りするんですよ。」

「そうそう!」

「ピア〜、だいじょうぶだよ!なに照れてんの?」

 とマホムやマリアやコータは、ピアを見ながらいいました。それを聞いたエゴン氏は、微笑みながらピアの頭をかるくなでて、立ち上がりました。

 そしてエゴン氏は、四人の子どもたちを見ながら熱く、こう語りました。

「わたしはみんなの音楽を、ぜひ、三つのエリジオンに住んでいる人たちに聴かせてあげたいと思っています。そう、世界ツアーだね──。みんなの、こころが落ち着きやすらぐ音楽を、世界中のたくさんの人たちに聴かせてあげて下さい。そして世界中の人たちのこころとからだを元気にしてあげて下さい──。みんな、お願いできるかな?」

「はい!」

「がんばります!」

 とマリアとコータとマホムの三人は、エゴン氏の目を見ながら笑顔でこたえました。

 でもピアだけ、まだ下を向いたまま返事をしていました。

 それからエゴン氏と子どもたちは、ふたたび握手をして、写真をいっぱい撮られて記者たちの取材を受けました。そしてエゴン氏たちは、ニュー・エヴァ計画の仕事がまだあるということで、三○分もしないうちに急いで帰って行きました。



 取材の人たちも帰り、ザワザワしていた音楽室も静かになり、四人の子どもたちだけが残りました。

「ぼくたち、すごいことになっちゃったね・・・。」

 とおもむろにコータが、ついさっきまでの出来事を思い返すようにいいました。

「そうね。なんだかワクワクしてくるわ。それにエゴンさんてテレビとおんなじで、やさしそうな人でよかったあ。もしライズさんから頼まれたら、ちょっと怖そうじゃない?」

 とマリアは、少し興奮気味に、ニコニコしながらいいました。

「そうだね──。でも、今日はふだん、うるさい人がほんとに静かだったね〜。」

 とマホムは、少し笑みも浮かべながら話し、ピアのほうを見ました。

 いつもなら、マホムにふだん、うるさい人≠ネんて皮肉ったジョークをいわれると、親しいからこそいえるような嫌味なジョークでいい返すピアが、このときは黙ったまま下を向いていました。そのいつもとちがうピアに気づいたマホムは、

「どうした、・・・どうしたピア・・・。」

 といいながら、急に真顔になって、ピアのそばにいきました。

「うん。だいじょうぶ・・・。ちょっと頭が痛かっただけ・・・。」

 とこめかみを指で押さえながら、ピアは小さな声でこたえました。

「なに、人見知りしてたんじゃなくて、調子が悪かったの?」

 とコータがいいながら、マリアといっしょに二人も、ピアのそばに来ました。

「へいき、平気・・・。もう、だいじょうぶだから・・・。」

 といって、ピアは顔を上げ、頭を上下左右に動かし、首をゆっくりとまわしました。

「ピア・・・今日ここに来たとき、元気だったでしょ?どうしたの?わたしも人と会うの緊張するほうだけど、エゴンさんはやさしそうだったから、ぜんぜん平気だったわ。」

 とマリアが、ピアの肩に手をかけながらいいました。

 するとピアは、

「やさしそう?わたしは、怖かったわ。とっても、怖かった・・・。」

 といいながら、右手で自分の目もとをおおいました。

「こわい!?」

 マホムとコータが偶然にもいっしょに、少し大きな声でこういいました。

「えっ、どうして?エゴンさんのどこが怖かったの?ピア・・・。」

 とマリアもピアの肩においていた片手を背中にまわし、かるく抱きながら聞きました。

「・・・あんな光のしゃぼん玉が出ている人、初めて見た・・・。ううん、あれは光じゃない・・・。あんな、あんな・・・。」

 といいながら、ピアは少し震えていました。

「どうしたんだよ、ピア・・・。光のしゃぼん玉がどうしたんだよ。」

 とマホムは、ピアの頭をやさしくなでながらいいました。

「エゴンさんたちみんな、からだじゅうから灰色のしゃぼん玉が出ていて・・・。とくにエゴンさんが、一番、黒ずんだ灰色のしゃぼん玉がいっぱい出ていたの。エゴンさんがわたしに近づいてきたとき、握手をしたとき、その黒ずんだ灰色のしゃぼん玉がわたしのからだの中にいっぱいとけ込んできて、・・・そうしたら、からだがどんどん重たくなって、気もち悪くなってきて、頭も痛くなっちゃったの・・・。エゴンさんから出ていたあのしゃぼん玉、見ているだけで背筋がゾッとしてきて、とっても怖くなったの・・・。」

 とピアは小さな声で、ゆっくりと思い出すようにいいました。

「ピア、調子悪いから、そんなふうに見えちゃったんじゃないの?」

「そう、エゴンさんて、そんな怖い人じゃないよ。」

「そう、ピア、だいじょうぶだよ。いっしょにがんばろう。」

 と三人は、ピアをなぐさめ、励ましました──。



 次の日の夕方、四人はふたたびホームの音楽室で待ち合わせをしました。三人がとても心配していたピアは、もう、いつものようにとっても元気になっていました。そして、これからはじまる世界ツアー(!?)に向けて、四人はピアのピアノを中心にジョイントの練習をしました。それぞれが真剣ながらも、いつものように演奏すること、歌うことをこころから楽しみながら笑顔あふれる中で、ハーモニーを奏でる練習を続けました。



 一週間が経ち、ニュー・エヴァ計画のエゴン氏側のイベントの一つである、ピアたちのふしぎな音楽≠フツアーが、いよいよはじまりました。

 エリジオンVの、ある大きなホールのステージにエゴン氏のすがたがありました。

「みなさんこんにちは!大陸平和維持機構のエゴンです。今日は、わざわざご来場下さりありがとうございました。わたしは、ニュー・エヴァ計画をみなさんと共に実現させてゆきたいと思っています。そのためには、この地球環境を改善し、共に平和に生きられる社会をつくろうと、一人ひとりが思い、行動することが必要です。そういう気もちを、この地球に住むより多くの人たちが、よりつよくもって、ひとつになることが大事です──。

そして、人のこころを打つ音楽は、人と人とを結びつけます。民族を越え、宗教を越え、たくさんの人びとが自分のほんとうの気もちに触れ、ひとつになれる力があります。

 今日はみなさんに、四人の純真な子どもたちが奏でる音楽を、ぜひ聴いていただきたいと思っています。子どもというのは、わたしたち人類の宝であり、未来を担う天使だと思います。みなさん!今日、・・・いま、この場でこころを解放して、その天使たちの奏でるメロディーを、ハーモニーをじゅうぶんに感じて下さい!感じていって下さい──。」

 とエゴン氏は、ピアたちのコンサートのまえに、熱くあつく語りました。会場のたくさんの聴衆からも、惜しみない拍手が贈られました。

 けれど実際には、そのステージにエゴン氏はいませんでした。客席からステージに見えたエゴン氏のすがたは、VR装置に映し出された等身大の立体映像のエゴン氏でした。イベントでのピアたちの初めてのコンサートのこの日、エゴン氏はプロジェクトの仕事のため、エリジオンUの砂漠地帯から、この映像を送っていました──。

 ピアやマホムのソロ演奏、そしてマリアやコータを含めたジョイント演奏、・・・とコンサートはどの会場でも毎回、大好評でした。ポップスやロックやダンスミュージックみたいに、聴衆が席を立って踊りながら聴いているようなコンサートの盛り上がり方はしませんが、子どもたちの曲が終わると、いつも大きな歓声と割れんばかりの拍手がありました。

ステージのまえに来て、目をうるませながらピアたちに握手を求める人たちもたくさんいました。

「ありがとう!こころが、ほんと和んだわ〜。マイナスな気もちでいた自分が、どこかに行っちゃったみたい・・・!」

「こんなやすらいだ気もちになったの久びさよ。元気を、ありがとうね!みんな。」

「演奏ばっかで、歌もことばを歌わなくて、オレ、よくわかんなかったけども、・・・な〜んだか、からだのちからが抜けてポカポカあったかくなって、気もちよかったよ!」

「あ、足の関節のしびれがなくなったのよ!なんで?ウソみたい・・・!」

「おかあさんの腰の痛みがなくなったの!なんてお礼いったらいいか・・・。」

「疲れていたこころを癒してくれて、みんな、ほんとにありがとう・・・!」

 と、このように子どもたち四人は訪れる会場ごとに、いろんなことばをかけられました。とくにピアは、こころやからだの病から解放された人たちから、感謝の気もちを伝えられると、その人たちに決まってこんなようなことをいっていました。

「こちらこそ、ありがとうございました。でも、・・・わたしが治したわけじゃないんですよ。わたしの曲に感じてくれたことで、あなたが、・・・あなたのちからに気づいて、自分で治したんだと思いますよ、きっと・・・。」

 あっ、それから、こんなこともよくいっていました。

「わたしは演奏を通して、ただ、みなさんのパイプ役になっただけですから・・・。あなたが忘れている別のあなた、──いくつものあなたに気づいてもらうために・・・。」

 ひとつの心の声≠ヘ、ピアがアンジェリクおばさんの右腕を治したときにも、おなじようなことを話していたなあ──と感じていました。

 でも興奮しながら、ピアに感謝の気もちを伝えていた人たちには、このピアのことばがあまり耳にはいっていないようでした──。



 そして、コンサートが終わって楽屋に戻ったとき、マリアとコータはこんな会話をしていました。

「あ〜、疲れたね〜・・・。」

 マリアは、額の汗をタオルでふきながら、いいました。

「そうだね。マリア、からだのほうは、だいじょうぶ・・・?」

 椅子に座って休んでいたコータは、マリアのほうを振り返りいいました。

「うん、だいじょうぶ。とっても疲れてはいるんだけど、なんか気もちがいいのよね。」

「わかる、分かる。ぼくも、そんな感じ・・・。何ていうんだろう?自分の気もちが、とっても充実してるんだよね・・・。」

「そう、そう!たくさんの人たちに、わたしたちの音楽を聴いてもらって、・・・それでやすらいでくれたり、元気になってくれたりして・・・。わたしも、その人たちの満足した笑顔を見たり、うれしくなるような感想の声を聞いてるだけで、・・・からだは疲れているのに、何だか、こっちもみんなから元気を与えてもらっている感じがして・・・。

あれっ?これって、・・・まえにピアも、こんなようなこといってなかったっけ?」

「うん、うん!いってた。マリア、いま、こころもポカポカしてない・・・?」

「あ、コータもそうなんだ・・・。こういう感じは、ピアの演奏を聴いているときもよくあったけど、・・・でも、聴かせてもらう、与えてもらうんじゃなくて、自分が歌い、人に与えると、こんなにも充実したあたたかい気もちになることができるのね・・・!」

「なんか、ピアがコミュニティーセンターの白山で、ぼくたちに話してくれたことが、いまになってやっと、わかったような気がするよ・・・。」

「ほんとね、コータ。いま、とってもハッピー≠チていう気分だもんね・・・!」

 マリアとコータの二人は、こういって顔を見合わせ、おたがいの右手と右手の手のひらをパァ〜ンと叩き合って鳴らし、顔をくずして微笑み合いました──。



 四人の子どもたちは、このツアーを通して、たくさんのことを経験しました。

 マリアやコータは、こんなことがあったら、──こんなことができたら楽しいなあ──と思っていたことが、どんどんと現実になってゆき、はじめその変わってゆく自分の目のまえの現実のスピードに戸惑い、不安に感じたこともありました。けれども、それいじょうに二人は、その現実の変化をドキドキワクワクしながら、楽しむことができました。

 ピアやマホムも、たくさんの人たちとの出逢いを通して、その瞬間、瞬間の自分自身を見つめ、ものの考え方や話し方ひとつにしても、またひとつ成長していきました。

 そして、この多くの体験とたくさんの人との出逢いは、四人の子どもたちに、ともだ ち≠ニいうかけがえのない大きなプレゼントを与えてくれました。



 ひとつの心の声≠ヘ、この四人の子どもたちのコンサートツアーを、ずっと聴いていました。ひとつの心の瞳≠ヘ、この子どもたちを、ずっと見続けていました。

 四人の子どもたちが、エリジオン各地のたくさんの人びとに、ゆっくりと降りそそぐように、輝いた光のしゃぼん玉を伝えているのを・・・

 四人の地球の天使たち≠ェ、ほんとうは人間なら誰でも使うことができる光の魔法≠世界中の人たちにかけているのを・・・


 ひとつの心の瞳≠ヘ、ずっと見ていました。

 音楽を聴いた、たくさんの人たちから戻ってきたまた新しい光のしゃぼん玉が、子どもたち四人それぞれのこころとからだにとけ込んで、大きな白い光につつまれるのを・・・


 ひとつの心の声≠ヘ、知っていました。

 マホムやマリアやコータには、ピアのように大きな白い光が見えないけれど、このツアーを通して、何度もその光のあたたかさを、こころと肌で感じることができたのを・・・

 ひとつの心の瞳=A心の声≠ヘ、とてもよろこんでいました。

 四人の天使たちが奏でるメロディーを聴いた世界中の人たちの中に、自分自身の光のしゃぼん玉≠ノ気づいた人がいることを・・・

 四人の天使たちが奏でるハーモニーを聴いた世界中の人たちの中に、天の川よりも美しく輝いている光の川≠ェ、地球上のどこにでも流れているということに気づいた人がいることを・・・

 ひとつの心の声=A心の瞳≠ヘ、これからの未来をとても楽しみにしました──。



ふしぎな音楽≠フツアーは、よい評判が評判を生み、エリジオンVでもTでも追加公演まで行なわれました。その追加公演の中には、病院やエンジェル・ホームのような施設でのコンサートもありました──。

 どこでコンサートをやるときでも、はじまるまえにエゴン氏はかならず、人びとにあいさつをしていました。でも、そのエゴン氏は、いつもVR装置に映し出された映像のすがたでした。だから四人の子どもたちも、エンジェル・ホームで初めて会った日以来、実際には、このツアーで一度も会っていませんでした。そのことをエゴン氏はいつも、子どもたちと会場の人たちに謝っていました。エゴン氏はニュー・エヴァ計画を一日も早く実現させようと忙しくしているので、四人の子どもたちは会えないことで腹を立てることはありませんでした。会場を訪れた大人たちの中には、エゴン氏が映像だけで実際にいないことを批判する人もいましたが、──    そういう人たちも、コンサートまえのエゴン氏の謙虚ながらも、熱く感情のこもったあいさつを聞いて、胸打たれてゆきました──。



 エリジオンVのコンサートが大盛況に終わり、エリジオンTでも最後の追加公演でのアンコールの演奏が終わり、会場の聴衆が全員、席を立って子どもたちに大きな拍手と歓声を送っていました。そしてそのホールいっぱいに鳴り響く音に反して、ステージの上にある大きな幕が少しずつ下りてきたとき、──とつぜん、VR装置の映像のエゴン氏のすがたがあらわれました。そのエゴン氏も、聴衆とおなじように大きな拍手をしていました。「ブラボー!ブラボー!みんな、感動をありがとう!マホムくん、マリアちゃん、コータくん、・・・そしてピアちゃん!」

 エゴン氏は拍手をしながら、大きな声でいいました。

「君たちのおかげで、世界中の人たちがニュー・エヴァ計画につよい関心をもち、これがわたしたち自身に直接関係するとても大事なことだと意識する人たちも、確実に増えてきました。いま、わたしたちはエリジオンUの広大な砂漠地帯を一日でも早く、緑に変えるために必死に努力しています──。」

 とエゴン氏が話すと、急に、その映像のエゴン氏のすがたが消え、等身大ではない録画映像に切り替わりました。そこには、五○○○人ほどの人たちが、一面の砂漠に植林をしている風景が映し出されていました。その映像は、だんだんとズームしていき、砂まみれの帽子をかぶり、ベージュの作業衣を着て、樹木の苗木を植えている一人の男性のうしろすがたが映されました。そしてその人が振り返ると、こんどは顔のアップの画面に替わりました。作業衣のその男性は、額に汗を流しているエゴン氏でした──。

 コンサート会場のステージには、この砂まみれの作業衣すがたでエゴン氏が植林している録画映像が流される中、ふたたびエゴン氏の声だけが、生で聞こえてきました。

「いま現在、この乾燥しきった大地の中央に、研究・開発施設をつくっています。この砂漠を緑にすることはもちろんのこと、この地球全体の環境を早急に改善していくための施設です──。でもこの計画も、わたし一人ではできません。わたし個人のちからは、とても小さなものです。どうか、みなさん!みなさんといっしょに夢を実現していけることを、こころから願っています。今日は、ほんとうにありがとうございました・・・!」

 と会場に響きわたると、ステージは立体映像のスーツを着たエゴン氏が頭を下げている映像に切り替わりました。会場には、大きな拍手が湧き起こりました──。

「ありがとうございます。ありがとうございます・・・!そしてピアちゃん、マホムくん、マリアちゃん、コータくん・・・君たちも、ほんとにありがとう!コンサートも残すところあと、わたしが今いるこのエリジオンUだけだね。からだに気をつけてがんばって下さい!いままで行けなかったけど、エリジオンUに来たら、こんどこそは応援に行きたいと思っています。たぶん、エリアF29でのコンサートに行けると思います。そのとき、君たちの生の演奏を聴けるのを楽しみにしながら、わたしも今をがんばります──。それでは、みなさん、・・・ほんとうに、ありがとうございました・・・!」

 といって、エゴン氏は少し頭を下げ、その数秒後にステージ上の彼の映像が消えました。そして会場には、ふたたび拍手が起こりました。ステージの端で、四人の子どもたちも拍手をしました。でもピアだけが、疲れがでたのか、ちょっと気分が悪そうに手を叩いていたのが、他の子どもたちも気にかかりました──。



 子どもたち四人は、エリジオンTの最後のステージの会場を出て、ニユー・エヴァ計画のエゴン氏側のスタッフに連れられて、エリジオンUに向かう飛行機に乗りました。

 からだの大きなマホムは、体調が悪くなった小柄なピアの肩を抱きながら、彼女の席のところまで連れていってあげました。

「ありがとう、マホム・・・。ちょっと、疲れただけだから・・・。」

 といって、ピアは席に座ると頭を下げて、すぐに眠ってしまいました。



 エリジオンUまでの予定のフライト時間は、一時間五○分でした。けれども飛行機が飛びたってから、三○分もしないうちにピアは目を覚ましてしまいました。ピアはスチュワーデスから水をもらって、眠そうな目をこすりながら少し飲みました。そしてまだ時間があるので、もう一度、寝ようと目をつむるのですが、なかなか眠れなくなってしまいました。

というのも、それはピアの頭の中に、とつぜん、詩のようなことばが浮かんできてしまったからでした。ピアは曲が思い浮かぶように、詩のようなことばのメロディーも、時どき、それもある日とつぜん、無意識のうちに浮んでくると、それを書き留めていました。

なぜメモするのかというと、いつまでも頭の中でそのことばの声が響いていて、──とくに、こういうすご〜く眠いときなどは、書き留めないとうるさくて眠れないからでした。ピアは、うす目で頭をゆらゆらさせながら、自分のバッグをひざにのせ、紙とペンを探しました。



 曲が思い浮かぶことも、詩のようなことばが浮かぶことも、──それはピアにとっては、空中を流れる美しく光り輝いた光の川≠ゥら、何百色もの光のしゃぼん玉≠ェ、からだの中にスーッととけ込んでくることでした。



 ピアは、もうろうとする意識の中で思いました。

 曲とか詩とか、・・・そういう無数の光のしゃぼん玉がからだに入ってくると、それは自分のこころの中で、ひとつの光の毛糸玉≠ノ変わるような感じがするなあ・・・。

 曲とかことばのメロディーは、光のしゃぼん玉のかたちで、からだにとけ込んだ瞬間、──その一瞬で、そのメロディーがどんな音なのかわかるんだけど、実際にその音を出そうとするとき、時間≠ニいうものがかかる──。

 浮かんだ曲を譜面にしたり、浮かんだ詩を書き留めるとき、わたしは、こころの中で光の毛糸玉≠フ糸を、まっすぐに伸ばしているような気がする・・・。

 丸く束ねられた、透き通るようにさまざまな色に光り輝いた一本の長い糸を・・・

 ピアは、ボ〜ッとした意識の中で、そんなことを感じていました。



 ピアは、束ねられた一本の糸をこころの中で伸ばしながら、詩のようなことばのメロディーをペンで書き留めました。

 その書き留められた白い紙には、こう書いてありました。






 あなたがもっている素敵なもの



 あなたのからだの中には

 あなたのラジオがあります

 あなたのこころの中には

 あなただけのテレビがあります



 でも、生まれてから

 そのラジオのスイッチを入れたことがありません

 でも、いままで

 そのテレビのチャンネルを替えたことがありません



 なぜ?って

 あなたは自分のからだの中に

 ラジオがあることを忘れているから

 どうして?って

 あなたは自分のこころの中に

 チャンネルがあることに気づいていないから



 あなたの意思は

 たくさんの放送を聞けるのに・・・

 あなたの意識は

 たくさんの番組が見れるのに・・・



 日々の慌ただしい生活の中で

 思い出そうとすらしない

 日々の流れる時間の中で

 目覚めようとすらしない



 ラジオの電源が、どこだか知らないだって?

 それは、あなたが探さないからでしょう!


 テレビのチャンネルが、どこだか見えないだって?

 それは、あなたが目をつむっているからでしょう!



 せっかく、この世に生まれてきたんだから

 せっかく、こころもからだも、もっているんだから

 使わないともったいないでしょう?


 おなじチャンネルばかりじゃつまらないでしょう?



 なぜ?って

 世界中の人たちといっしょに

 楽しい放送も聞けるのだから・・・

 どうして?って

 世界中の人たちといっしょに

 こころ温まる番組も見れるのだから・・・



 この地球上のすべての人たちに

 美しい音と輝いた映像を

 ずっと昔から放送し続けている

 この世にたったひとつしかない

 あなただけの

 素敵なラジオやテレビをもっているのだから



 そう、・・・

 そのあなたの無限に広がるこころの中に・・・



       

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